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*message* 映画『THE ARTIST』

2012/06/22更新

映画 『アーティスト-THE ARTIST-』   (2011年・フランス)

  監督・脚本・編集: ミシェル・アザナヴィシウス
  製作: トマ・ラングマン
  撮影: ギョーム・シフマン
  音楽: ルドヴィック・ブールス
  出演: ジャン・デュジャルダン/ベレニス・ベジョ 他

◆なぜ、今この時代に モノクロサイレント?

VFXや3Dなどの技術を競うかのような現代にあって、
21世紀に新たにつくられるサイレントはどんな表現なのか。
それを現代の人たちがどう受け止め、受け入れていくのか。
サイレント映画音楽の一端に携わらせていただいている身として
とても興味のある映画でもありました。

第84回アカデミー賞の作品賞、主演男優賞、監督賞など5部門を受賞。
サイレント映画が作品賞を受賞するのは、
第1回アカデミー賞『つばさ』以来83年ぶりでフランス映画では初だそう。
(『第七天国』や『サンライズ』は芸術作品賞や監督賞・主演女優賞ですね)

「サイレントである」という以外の前知識なく
公開してすぐに観に行ったのですが、
むしろ何もなかったおかげでストーリーも純粋に楽しめました。

◆あ、このシーンは…

『メトロポリス』のロトワング博士?!
『第七天国』のディアンヌ?
『奇傑ゾロ』のダグラス・フェアバンクスのアクションシーン!
(まさに2月の松本公演で、活弁なしで音だけで聴かせるのに工夫したあのシーン!!)

と、まず身に覚えのあるシーンに興奮しつつも、
画面の質感のキレイさにビックリしつつ、はじめは違和感も…。

そう、いつも観ている無声映画の16mmフィルムは
例えるなら ISO1600 の画質のような質感。
そこに、モノクロ階調のコマがカラカラと流れ…。

それに比べて、この映像はモノクロ階調にはない画質。。。
銀塩モノクロフィルムではなく
精密な粒子のデジタル画像をレタッチしたような色調。

それもそのはず、もともとはカラーで撮影され、
そのあと、モノクロにコンバートされたもののようです。

◆音はたしかに、最小限の字幕と音楽のみ、なのですが
日頃サイレント映画を見ない人にはどう感じたのでしょう?
私は、むしろかなり親切丁寧(?)に字幕がついていたように感じました。
日頃、サイレント映画に音楽をつける際には、
「まさに無音」という映像資料を観ながらなので
活弁はもちろん、字幕の翻訳もないことも多く、
映像のみでは理解できないシーンが多々あったりもするもので…
それに比べたら、わかりやすいサイレント、でした。

◆1920年代のハリウッドを舞台に
サイレントからトーキーへ移行する時期の
映画界に生きる人々を描いた作品。

時代がトーキーに変化するシーンを、
初めて効果音を入れ、そう表現してきたか!とか
病院の白が「これぞモノクロ」というとても印象的な美しさであったり、
質入れしたタキシードをガラス越しに移す時の警官のセリフが
あえて字幕を入れていなかったり、
サイレントであることを活かした表現も随所に楽しめました。

ストーリーとしては、予告動画などでは
軽快なタップシーンもありとても楽しそうな印象ですが
むしろそれはあのシーンだけで、
全体は、とてもせつなく、やるせない内容です(涙)

サイレントからトーキーに移り変わる時代の映画に
音をつけるお仕事に携わせていただいていることで
そのフィルムの中に生きた人々が、
実際その葛藤をしてきたことを耳にしてきたことはもちろん、
写真においても、モノクロ銀塩手焼きプリントで作品を創作してきた私は、
フィルムからデジタルへの時代の流れもそこに重ねつつ
胸にグッとくるもの感じながら、涙して観ていました。

そして、最後には、
あぁ、だからタイトルが『THE ARTIST』なのだな、
と心から納得した映画でした。

(映画業界の経理を専門としている人と一緒に観にいったので
 私とはまた違った角度の観点・感想に
 時代を先読みし、ビジネスとして成功させる側と
 最後まで己の信じた作品にこだわりつづける
 芸術家の意見も交わしながら

 改めて“ARTIST”の意味を深く感じました)

◆映画で名演を見せてくれたジャックラッセルのアギー。
犬で始めてのハリウッド殿堂入りだそうです(笑)
かなりの芸達者で、わんこ好きにはたまらないのですが、
今回の撮影もかなり過酷だったようで体調にも影響が…
これで引退だそうです。

映画の撮影がどれほど過酷か…
私自身は、わんこの体調や負担がどうしても気になってしまうので
ついついそちらが気になってしまい…(涙)
引退後は、どうかゆっくり休んでほしいな、と願います。

そして、この映画を通して、
当時の銀幕史上の原点であり宝である、
たくさんのモノクロサイレント映画の素晴らしさが
多くの方に知っていただき、観ていただけるとうれしいです。
その宝を作った過去の偉人たち、
そして、現在もそれを継承している人々に敬意を表しつつ…

(Harumi Misawa)




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